2026.10.09 値段では分からない。縫製の良いワイシャツはどこを見る?シャツメーカーが見る「作りの良し悪し」7つのポイント
前回の動画では、「なぜ同じような白シャツが5,000円にも2万円にもなるのか?」というテーマで、シャツの値段は、生地や縫製だけではなく、生産量、 流通、 店舗、 サービス、 ブランド、このようないろいろな要素によって決まっている、という話をしました。

つまり、値段だけを見ても、そのシャツ自体の作りが良いか悪いかは、はっきり分からないということです。
では、値段やブランド名をいったん見ないで、目の前にあるシャツそのものだけを見たとき、「これは上手に、きれいに作られているな」というのは、どこを見れば分かるのでしょうか。
今日は、長年シャツを企画・製造してきた立場から、私がシャツの縫製や作りを見るときにチェックする7つのポイントをお話しします。
今回は、生地の良し悪しにはほぼ触れません。
価格の中で生地が占める割合は大きい、というお話を前回しました。
高番手だからどう、綿花がどう、という話が加わると、シンプルな比較ができなくなるからです。
サイズについても、今回は基本的に外します。
純粋に、「どう縫われて、どう組み立てられているか」だけを見ます。
そして個人的な見解として、最初に結論をお伝えすると、良い縫製というのは、とにかく細かく縫ってあることでも、手縫いが多いことでもないと思っています。
私が一番重要だと思うのは、「狙った形に、正確に、無理なく組み上がっているか」です。
それでは順番に見ていきましょう。

目次
♦動画目次
00:00 オープニング
02:00 ①「左右のバランス」
03:29 ②ステッチは「細かさ」より「安定しているか」
05:14 ③意外と差が出る「縫い縮み・パッカリング」
07:55 ④「角」と「カーブ」を見る
09:18 ⑤ボタンホールとボタン付けを見る
10:45 ⑥柄物なら「柄合わせ」
09:39 ⑦シャツを「裏返す」
13:32 「高級仕様」と「縫製品質」は分けて考える
14:26 7つ全部完璧なら「良いシャツ」なのか?
15:11 まとめ
♦①「左右のバランス」

非常にシンプルですが、あらゆるパーツの左右がきれいに揃っているかです。
例えば襟。
左右の襟羽根の長さ、角度、襟先の位置。
これらがきれいに揃っているか。

シャツというのは、何枚もの生地を裁断し、それを縫い合わせて作ります。
ですので、裁断がずれていたり、縫い合わせる位置がずれていたりすると、最終的に左右差として出てきます。
さらに、芯地を貼る位置やアイロンでの仕上げ、型紙の精度も、左右差の原因になります。
つまり左右のバランスには、裁断・縫製・仕上げ、工程全体の精度が表れます。
カフスも同じです。
左右の大きさが違わないか、角の形が違わないか、ボタン位置がずれていないか。
ただし、完全にミリ単位で左右同じでなければ不良、という話ではありません。
シャツの縫製は、今も人の手に頼る部分が大きい仕事です。
人が作っている以上、多少の誤差は出ます。
見るべきなのは、着たときに違和感として感じるほどズレていないかです。
まずここを見ます。
【左右のバランスには、裁断・縫製・仕上げの精度が出やすい】
♦②ステッチは「細かさ」より「安定しているか」
高級シャツの説明で、よく、「細かいステッチ」 「細かな運針」という言葉があります。
針で縫った糸の縫い目の間隔を針目といいますが、確かに針目を細かくすると、縫い目が目立たず、見た目に上品な仕上がりになります。
そのぶん、縫製に時間がかかる、手間のかかる仕様の一つです。

一般的に言われている目安として、シャツの針目は3cmあたり21針前後が一般的で、高級品では24針以上になるものもあります。
ただ、私は、針目が細ければ細いほど良いか?と言われれば、これだけではないと思っています。
生地によっては、針目を細かくするほど、縫い目が詰まってパッカリングが出やすくなることもあります。
生地との相性があるわけです。
それより見るべきは、
・縫い目がまっすぐ走っているか
・端からの距離が一定か
・途中で蛇行していないか

例えば、襟の周囲を縫っているステッチ。
ずっと見ていくと、きれいなものは、生地の端からほぼ同じ距離を保ったまま進んでいます。
一方、縫製が安定していないと、途中でフラフラすることがあります。
ですから、まず見るべきはここです。
【細かさより、均一さ】
細かいステッチでも曲がっていたら、それだけで良い縫製とは言えません。
逆に、極端に細かくなくても、きれいに一定で縫われている。
当たり前のことと思うかもしれませんが、私はこちらの方が縫製に必要なことかなと思います。
もう一つ、縫い始めと縫い終わりも見てください。
返し縫いがきれいに重なっているか、糸端が長く残っていないか。
ここは裏返したときにも確認できます。

♦③意外と差が出る「縫い縮み・パッカリング」

これは、ぜひ実物で見ていただきたいのですが、新品の状態で縫い目の周りが波打っていないか、です。
専門的には、”パッカリング”と呼ばれることがあります。
例えば、視覚的に目にしやすい、襟・カフス・前立て・ポケットといった部位。
こういった部位の縫い目の周辺を見たとき、生地が不自然に縮んで、細かく波打っている。
あるいは、縫ったところだけが、ギュッと引っ張られている。こういった状態です。
原因は一つではありません。
糸の張力、針、縫製条件、生地との相性、ミシンの送りや押さえの圧力、縫い糸や芯地の収縮、そして縫う技術。
いろいろなものが関係します。

またカーブが大きいアームホールや巻き縫いで縫製されている脇縫い部分は、気をつけていても若干パッカリングがでやすい部位です。

また、洗い加工をかけたカジュアルシャツなどでは、あえて表情としてパッカリングを出すこともあります。
ですから、パッカリング=全部悪いという話でもありません。
ただ、端正なドレスシャツを作ろうとしているのに、視覚的に見えやすい部分=襟・カフス・前立て・ポケット部分の縫い目の周りが大きく波打っている。
これは、あまりきれいな仕上がりとは言いにくいと思います。
今回の7つのポイントの中でも、パッカリングについては、比較的見つけやすいポイントです。
ただこれはあくまで新品の話で、洗濯をするとアームホールや脇縫いは、ワイシャツの構造上パッカリングが出る場合が多いです。
これらの部位に関してはワイシャツの味と思っていただくほうがいいと私は思います。
また他の部位でも洗濯後に若干出るのは致し方ないですし、これは検査機関でも最低限は認められていることはお伝えしておきます。
♦④「角」と「カーブ」を見る

私がよく見るのが、角とカーブです。
シャツには、直線だけではなく、いろいろな形があります。
例えば、襟先、カフスの角、ポケットの角、剣ボロ(袖口のあきの部分)、そして襟のカーブ。
このようなところです。
特に襟先。
きれいなものは、先端まで形が整っています。左右も揃っています。
逆に、先端が丸くつぶれていたり、片方だけ微妙に形が違ったり、生地が余って膨らんでいたりすることがあります。
襟先やカフスが膨らんだり、表面に気泡のような浮きが出ていたりするのは、縫製だけでなく、芯地の貼り具合が関係していることもあります。ここも「作りの良さ」の差が出やすいところです。

カフスも同じです。
例えば、ラウンドカフスであれば、左右のカーブが自然につながっているか。
角のあるカフスであれば、角がきれいに出ているか。
これらの点は縫製の丁寧さが非常に出やすいです。
なぜなら、直線を縫うより、角やカーブをきれいに仕上げる方が難しいからです。
【縫製を見るなら 直線より「角・カーブ」】
♦⑤ボタンホールとボタン付けを見る

ボタンそのものが、貝ボタンか、樹脂ボタンか、という話ではありません。
それはボタンの仕様の話です。
今回見るのは、どのボタンを使っているかではなく、どう付いているかです。
まずボタンホール。
ボタンホールは専用のミシンで作られるので、仕上がりの差には、職人の腕だけでなく、機械の調整や工程管理の差が出ます。
・周囲の糸がきれいに揃っているか
・穴の端がボサボサしていないか
・切り口からほつれが出ていないか
・余計な糸が飛び出していないか
・ボタン付けの糸も同様に、糸の切り残しが出ていないか

そして、ボタンの位置。
・前立ての中心からずれていないか
・複数のボタンが、一直線にきれいに並んでいるか
・ボタン付けも、縫い付けがゆるくてグラグラしていないか
・きつく締め付けすぎて、留めづらくないか
・ボタンと生地の間に、糸の足(糸足)があるか
糸足があると、ボタンが前立ての厚みに合わせて、浮きすぎず沈みすぎず、きれいに留まります。

シャツ全体からすると、ものすごく小さな部分です。
ですが、こういう細部というのは、工程管理の差が出やすいところでもあります。
特にボタンホールは、ぜひ一度、手持ちのシャツを何枚か並べて見てみてください。結構違います。
♦⑥柄物なら「柄合わせ」

白無地のシャツでは見られませんが、ストライプやチェックのシャツなら、ぜひ見てほしいポイントが、柄合わせです。
例えば、ポケット。
きれいに作られたシャツだと、ポケットの柄と、身頃の柄が自然につながっています。
場合によっては、少し離れて見ると、ポケットがどこにあるのか分からないくらいです。
前身頃でも、左右の柄のバランスを見ることができます。

ただし、ここは少し注意が必要です。
シャツには曲線があります。例えば袖と身頃の接合部分。
すべての場所で、完全に柄を合わせることは、構造上難しい場合があります。
ですから、「すべての柄が合っているか」ではなく「どこまで意図して合わせているか」を見る。
柄合わせには、裁断の手間がかかります。生地のロスも増えます。
ですから柄合わせは、純粋な縫製だけではなく、裁断から含めた「作りの丁寧さ」を見るポイントです。

♦⑦シャツを「裏返す」
これは、今回一番やっていただきたいことです。
シャツを裏返します。
表側だけを見ていると、きれいなシャツというのは、結構あります。
そもそも商品ですから、表をきれいに見せるのは当然です。
でも、裏側を見ると、そのシャツがどう作られているかが、かなり見えます。

例えば、 脇、袖付け(アームホール)、袖、裾。
こういった部分の、縫い代の処理、余分な糸、縫い終わり、縫い目の乱れ、などを見ます。
ただしここでも、誤解してほしくないことがあります。
巻き縫いだから高級。環縫いやオーバーロックだから安物。という単純な話ではありません。

縫製方法には、それぞれ理由があります。
量産性、耐久性、厚み、着心地、用途。
こうしたものを考えて選ばれています。
ですから、縫い方の種類そのものより、その縫い方がきれいに処理されているかを見る。
以下のようなものがないか。
・糸が大量に飛び出している
・縫い代が不自然にねじれている
・生地が引っ張られている

私は、裏側を見ると、そのシャツを作った工場の仕事が、かなり見えると思っています。
【表は商品 裏は仕事】
少し極端な言い方ですが、私はそんな見方をしています。
♦「高級仕様」と「縫製品質」は分けて考える

ここまで、7つお話ししました。
1.左右のバランス
2.ステッチの均一さ
3.縫い縮み・パッカリング
4.角とカーブ
5.ボタンホール・ボタン付け
6.柄合わせ
7.裏側の処理
ここで、今回一番お伝えしたいことがあります。
高級仕様と縫製品質は別、ということです。


例えば、白蝶貝のボタンを使う、非常に細かな針目(運針)にする、巻き縫いで仕上げる。
こういったものは、価格を上げる要素にはなります。
ですが、貝ボタンを使っているから、縫製がきれいとは限りません。
細かい針目だから、まっすぐ縫えているとも限りません。
逆に、樹脂ボタンを使っていて、量産されているシャツでも、縫製工場の管理が非常によければ、とてもきれいに作ることができます。
ここは、前回の動画ともつながる部分です。
【値段と仕様だけでは作りの良し悪しは分からない】
ですから、実物を見る。これが大切です。
♦7つ全部完璧なら「良いシャツ」なのか?
ここまでの内容ですと、「では、この7つが全部きれいなら、良いシャツなんですね?」と思うかもしれません。
ここも少し違います。
今日お話ししたのは、あくまで、縫製・作りを見る方法です。
どれだけ縫製がきれいでも、サイズが合わない、生地が自分の用途に合わない、襟型が自分の着方に合わない。
そうなれば、その人にとって、使いやすいシャツとは限りません。
つまり、良いシャツというのは、
生地、縫製、設計、サイズ、用途。
こういうものが組み合わさって決まります。
今回は、その中の、「縫製」だけを取り出して見たということです。


♦まとめ



値段やブランド名を見ずに、ワイシャツの縫製を見るなら、チェックしたいのは、この7つです。
1.左右のバランス
2.ステッチが均一か
3.縫い縮み・パッカリングがないか
4.角とカーブがきれいか
5.ボタンホール・ボタン付けがきれいか
6.柄合わせが丁寧か
7.裏側まできれいに処理されているか
そして、今回一番覚えておいていただきたいのは、良い縫製=高級仕様ではないということです。
貝ボタンだから、手縫いだから、細かいステッチだから、有名ブランドだから。
それだけで、作りの良し悪しは判断できません。
見るべきなのは、狙った形に、正確に、無理なく組み上がっているかです。
次にシャツを見る機会がありましたら、襟、ステッチ、ボタンホール、そして最後に、一度裏返してみてください。
値札を見るだけでは分からなかったものが、結構見えてくると思います。
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